・・・考えてみたら、あの日航機墜落からまる20回忌にあたる22日がもうすぐやってくる。
あの事故で突然この世を去ってしまった向田邦子さんの本を、実は再び・・・なんとなく読みたくなってきてた。
で、手始めに手を取ったのがこの本。
著者は向田家の三女、和子さんの手によるもので、実は姉である邦子さんが亡くなってからだいぶ経ってから、初めてこの茶封筒を開けたという。
その内容は・・・・姉が恋人にあてた手紙と、その相手であるN氏の日記だった。
N氏は、彼女より13歳年上で妻子持ちのカメラマンだった。しかし、脳卒中で倒れ、足が不自由になり働けぬ状態だったらしい。・・・一度は身を退いたのだが、結局、この関係はN氏が自決するまで続くことになる。
この恋愛は、彼女にとってかけがいのないものであった。
どんなにスケジュールがタイトで、ホテルにカンヅメになったとしても3日置かずにN氏の家に寄ってご飯をつくり、会話をしながら、食事をすること、そして、たまには外で買いものもしたり、会えない時には手紙でお互いを慈しみ合う。
そんなひとときが彼女を支えていたことは、この本に納められている5通の手紙を読んだだけでも充分に、それも・・・痛いほど感じることができる。
実際、実家では向田家を支えるしっかりモノの女性なゆえ、一切の泣き言や悩みなどは家族に対して口にしなかったという。
そんな彼女が唯一寄りかかれる相手である、(でも寄りかかるだけでなく、きちんと支えているところが彼女の凄いところでもある)N氏との恋愛の中で、自分が求めているものを探し、見つけ、育てることができたのは、ある意味、幸運だったと思わざるを得ない。
例え、それが障害のある恋だったとしても・・・・
しかし、結果的に、そのN氏へのひたむきな思いは突然、N氏が自ら命を絶つことで終止符を打つことに・・・・・
このN氏の死によって彼女が突きつけられたのは、自分にとって幸せだったことが、相手にとっては必ずしもそうではなかったという、自分と共に、生きていくことへの否定・・・・
愛してる相手を支えきれなかった自分への悔しさ、無念、そして、自分が共に生きる相手として、選んでもらえなかったN氏への憎しみ、自ら死を選んだことへの怒り、悲しみなどのさまざまな感情は、やがて、廃墟の中から立ち上がり、人として、生きることの幸せとは?生きることはホントはどんなことなのだろう?と少しずつ自問自答を繰り返していき、やがて、たくさんの名作といわれる作品たちを世に送り出すことになった。
この時、じょじょに・・・・とは思うが、作品をどんどん出すことで、彼女自身、自ら命を絶ったN氏の弱さや、強がりも赦せることができたのではないだろうか?
そして、それらの作品中に出てくる登場人物たちは懸命に生きようとする人間達が多い。
・・・それはある種、”生きていてほしかった”相手への無念さが生んだ復讐なのかもしれない。
この本を読んでそんなことを思ってみたりもする。
・・・・結果的には残念な形で、この世からいなくなってしまわれたけれど、それでも、最後まで生きることにこだわり続けた、向田邦子というひとりの女性の姿が、この本には存在している。
・・・その姿はとても気高く、美しい。